SmokeOut
0%
因果のすり替え(Causal Substitution)
論理(誤謬・飛躍)

因果のすり替え(Causal Substitution)

実際に存在する因果関係を隠して、記事が用意した「別の理由」に置き換えてしまう書き方。 たとえば「契約期間が満了したから移籍」という事実があるのに、「事務所と対立したから移籍」みたいに、全然違う理由にすり替えちゃうパターン。

📖 詳細解説

🪞 よくあるパターン

パターン1:本人発言のすり替え

- 本人:「結婚して新しい世界に入るのが不安」

- 記事:「相手の過去の趣味が心配で不安」

パターン2:客観的事実のすり替え

- 事実:契約期間満了で移籍

- 記事:「事務所との方針の違いで移籍」

パターン3:数字・データのすり替え

- 事実:視聴率低迷で続編中止

- 記事:「主演俳優のスケジュール調整難航で中止」

パターン4:スケジュール・物理的制約のすり替え

- 事実:撮影期間が重複して出演辞退

- 記事:「ギャラ交渉が難航して辞退」

──これ、どれも実際の因果関係があるのに、記事が「もっと面白い理由」を勝手に作っちゃうパターンです。


🧩 なぜ起こるの?

1. 「面白い物語」への欲求

本当の理由が「地味」だと、記事として盛り上がらない。だから、より「ドラマチックな理由」に置き換えたくなる。

2. 匿名証言の便利さ

「関係者によると」と書けば、どんな理由でも後付けできる。本人発言や客観的事実より「面白い推測」の方が記事になる。

3. 文脈の都合

記事全体のストーリーに合わない理由は、都合よく別の理由に置き換えられる。

4. 読者の先入観

読者が「きっとこれが理由だろう」と思っている方向に、記事が合わせてしまう。


🔬 他の技法との違い

📊 比較表

技法の種類

構造

「因果のすり替え」との違い

擬似因果

因果関係がないのに、あるように見せる

今回は因果関係自体は存在する

並置誤謬

偶然近接しただけで因果を主張

今回は実際の原因を積極的に隠す

論理の飛躍

推論過程が不十分

今回は推論ではなく意図的な置換

因果のすり替えの特殊性

✅ 本物の因果関係が存在する

- 本人の発言として明示されている

- または客観的事実(契約、スケジュール、数字等)として確認できる

✅ それを意図的に別の理由に置き換える

- 記事が「もっと面白い理由」を創作

- 匿名の「関係者談」で別の因果を主張

✅ 置き換えた理由の方が「面白い」「ウケる」

- 対立、確執、スキャンダル等のドラマ性

- 数字や契約より「人間関係」の方が記事になる


🔍 見抜き方のコツ

チェックポイント

1. 実際の因果関係を確認する

✅ 本人は何と言っていた?

✅ 客観的な事実関係は?(契約、スケジュール、数字)

✅ 記事の「理由」と一致している?

2. 出典を確認する

⚠️「関係者によると」ばかりじゃない?

⚠️ 匿名証言が理由を作っていない?

⚠️ 公式発表や本人発言を無視していない?

3. 文脈を確認する

✅ 前後の発言を読むと、意味が変わらない?

✅ 記事が一部だけ切り取っていない?

✅ 時系列や契約関係を無視していない?

4. 「面白さ」に注意

⚠️ 記事の理由、ちょっと面白すぎない?

⚠️ ドラマチックすぎない?

⚠️ 「対立」「確執」という言葉が多用されていない?


🪄 どう書き換える?

パターン1:本人発言のすり替え

Before(すり替えあり):

アイドルグループのCさんが脱退を発表。

「新しい夢に向かいたい」とコメントしたが、実は他のメンバーとの確執が原因だという声もある。

問題点:

- 本人は「新しい夢」と前向きに語っている

- 記事は「メンバーとの確執」という理由を推測

- 読者は「人間関係が悪かった」と誤解

After(すり替えなし):

アイドルグループのCさんが脱退を発表。

「グループでの経験を糧に、新しい夢に向かいたい。やってみたいことが明確になってきた」とコメント。

メンバーも「応援しています。これからも友達」とエールを送っている。

改善点:

- ✅ 本人の前向きな意思を尊重

- ✅ メンバーとの関係性も明示

- ✅ 「確執」という根拠のない推測を持ち込まない

パターン2:契約・スケジュールのすり替え

Before(すり替えあり):

タレントDが事務所を移籍。

長年所属した事務所との方針の違いが表面化し、

関係者は「最近は険悪だった」と明かす。

問題点:

- 客観的事実:契約期間満了(更新せず移籍)

- 記事の創作:方針の違い、険悪な関係(推測)

After(すり替えなし):

タレントDが事務所を移籍。

3月末で契約期間が満了し、双方協議の上、更新しないことで合意。

事務所は「今後の活躍を応援します」とコメントしている。

改善点:

- ✅ 契約という客観的事実を明示

- ✅ 双方の合意という経緯を説明

- ✅ 「険悪」という根拠のない推測を持ち込まない

“事実はそのままに、物語を盛らない”──それがコツです。


🪶 関連ワード

因果関係の誤謬ファミリー

並置誤謬(Juxtaposition Fallacy)

→ 時系列的に近接しているだけで因果を主張。因果のすり替えの「親戚」。

擬似因果(False Cause)

→ 因果関係がないのに、あるように見せる。因果のすり替えでは因果は存在するので異なる。

推測の事実化(Speculative Assertion)

→ 推測を事実のように語る。因果のすり替えでよく使われる手法。


声の扱い方の問題

声の逆転(Voice Inversion)

→ 多数派の声を少数派のように、少数派を多数派のように語る。

主語錯乱(Subject Confusion)

→ 「関係者」「ネット上では」など、主語を曖昧にする。


🌈 まとめ

因果のすり替えは、実際の因果関係より「面白い理由」を優先してしまう構造。

悪意というより、「記事を盛りたい」という気持ちから生まれることが多い。

でも、それが重なると:

- 本人の誠実な言葉が届かなくなる

- 客観的事実が見えなくなる

- 読者が誤った理解をしてしまう

- 当事者が「そんなこと言ってない」と感じる


見抜くコツは

  1. 本人発言を確認する(何と言っていた?)
  2. 客観的事実を確認する(契約、スケジュール、数字は?)
  3. 「関係者談」に注意(理由を創作していないか)
  4. 「面白すぎる理由」に警戒(ドラマチックすぎないか)

書く側ができること

- 本人が語った理由を尊重する

- 客観的事実(契約、数字、スケジュール)を明示する

- 匿名証言で理由を創作しない

- 「地味でも誠実」を選ぶ

記事が本人の言葉や客観的事実を大切にするだけで、煙はスッと晴れていきます。

📌 この辞典項目は、SmokeOutの分析記事から生まれました。

実際の報道を通じて発見された構造的問題を、誰もが理解できる形で整理しています。


✨ 補足:学術的な位置づけ

既存の並置誤謬との違い:

- 並置誤謬:偶然の近接を因果と誤認(非意図的な場合も)

- 因果のすり替え:実際の原因を積極的に隠し、別の原因を創作(意図的)

既存の擬似因果との違い:

- 擬似因果:因果関係が存在しないのに、あるように見せる

- 因果のすり替え:因果関係は存在するが、別の因果に置き換える

この技法について学んだことをシェアしましょう

🔗 関連する技法

逆因果(Reverse Causation)

向きが逆です。本当は B → A なのに、A → B と読ませます。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)

擬似因果(Pseudo-Causation / 相関因果混同)

一緒に動いた(相関)だけで、原因と結果(因果)に見せる書き方です。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)

論理の飛躍(Non Sequitur / Jump in Logic)

結論にたどり着くための橋(前提・比べ方・証拠)が抜けたまま、話が一段飛んで着地している状態です。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)

因果の飛躍(Causal Leap)

「AがあったからBになった」と言い切るのに、順番(時系列)、つながりの道筋(しくみ)、他の理由(第三要因)、もしAが無かったら?(反事実)のどれかが欠けている状態です。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)

レッドヘリング(Red Herring/燻製ニシンの虚偽)

本題への質問から話題を横にずらし、別テーマ(人柄・私生活・空気・美談・ファッション等)に切り替えて答えたように見せる手法です。 検証や説明が必要な点から、読者の注意を外します。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)

過度の一般化(Overgeneralization)

限られた事例や一部の意見を、全体の傾向や真実として扱ってしまう論理的誤り。 小さなデータを「社会全体」「ネットでは」「多くの人が」と一般化してしまうことで、誤った印象や感情を作り出す。

詳細を見る → 論理(誤謬・飛躍)