📖 詳細解説
レッドヘリングが起きるとき、記事の“道筋”は一見なめらかです。
見出しがテーマを掲げ、本文が熱量たっぷりに語りだす。
ところが、読み終えた瞬間にふと気づきます。「結局、いちばん知りたかったことには答えていないのでは?」——これがレッドヘリングの感触です。
ポイントは「読者の本題」です。テーマが視聴率なら「(何かと比べて)本当にすごいの?」、謝罪会見なら「何をどう是正するの?」。
この一言の問いに本文が直球で当たっているかが勝負になります。
レッドヘリングでは、本文が人柄・私生活・美談・周辺ネタ話題を移し、読者の思考を“横へ”連れていきます。
道は見えているのに、目的地(本題)は遠のく——このズレが本質です。
起こりやすい場面には共通の“合図”があります。「なのに」「一方で」「しかし」「ところで」といった接続の直後に、テーマと関係が薄い話題が始まるときです。
読んでいて景色が変わったら、一度だけ立ち止まりましょう。「私は今、何を知りたい?」と一行で言い直し、本文がYes/No・数字・原因・比較で直答しているかを確かめます。
ここで外れていれば、論点はすでに横滑りしています。
レッドヘリングは、必ずしも悪意から生まれるとは限りません。感情に寄り添いたい、紙面を華やかにしたい、炎上を避けたい——そんな編集上の動機が、いつの間にか本題の空白を広げてしまうのです。だからこそ、読み手は一言の本題に戻る習慣を、書き手はテーマ→本題→直答の一直線を守る姿勢を持つだけで、多くの“煙”はその場で晴れていきます。
例
例1|視聴率ニュース
見出しの全体像:「ドラマ視聴率が好調! なのに主演の恋愛観に賛否で“評価は微妙”?」
読者の本題:「本当にヒットと言える根拠は?」(指標の種類/期間/比較)
本文のすり替え: 恋愛観・過去炎上など私生活の話題へ移動。
誤誘導: 作品評価を私生活の是非で揺らし、評価の妥当性を棚上げ。
例2|謝罪会見
見出しの全体像:「俳優が謝罪会見 ネットは『涙は本物?』で騒然」
読者の本題:「何を誤り、何をどう是正するの?」(事実・処分・再発防止)
本文のすり替え: 「泣いた/笑った/目線が泳いだ」など態度描写へ。
誤誘導: 是正策の実効性より、人柄印象で“許す/許さない”に誘導。
よく混同されるものとの違い
- 連想統合法(Associative Continuity): 同じ話題のまま過去の出来事を点→線に並べて一貫性を演出。
- レッドヘリング: 話題そのものを別方向へ切り替え、論点の土俵を変えます。
「本題を一言に戻す → 直答かどうかを見る」。
この小さな手順だけで、読者は迷いにくくなり、書き手はズレにくくなります。
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🔗 関連する技法
因果のすり替え(Causal Substitution)
実際に存在する因果関係を隠して、記事が用意した「別の理由」に置き換えてしまう書き方。 たとえば「契約期間が満了したから移籍」という事実があるのに、「事務所と対立したから移籍」みたいに、全然違う理由にすり替えちゃうパターン。
逆因果(Reverse Causation)
向きが逆です。本当は B → A なのに、A → B と読ませます。
擬似因果(Pseudo-Causation / 相関因果混同)
一緒に動いた(相関)だけで、原因と結果(因果)に見せる書き方です。
論理の飛躍(Non Sequitur / Jump in Logic)
結論にたどり着くための橋(前提・比べ方・証拠)が抜けたまま、話が一段飛んで着地している状態です。
因果の飛躍(Causal Leap)
「AがあったからBになった」と言い切るのに、順番(時系列)、つながりの道筋(しくみ)、他の理由(第三要因)、もしAが無かったら?(反事実)のどれかが欠けている状態です。
過度の一般化(Overgeneralization)
限られた事例や一部の意見を、全体の傾向や真実として扱ってしまう論理的誤り。 小さなデータを「社会全体」「ネットでは」「多くの人が」と一般化してしまうことで、誤った印象や感情を作り出す。