📖 詳細解説
「近さ」の3タイプ(ここを押さえると迷いません)
- 物理的な近さ:見出しの横並び、段落の前後、写真とキャプションの隣接
- 時間的な近さ:「先週〇〇、今週△△」のような連続提示(前後を並べる)
- 視覚的な近さ:同じ図・同じテーブル・同じ画面に説明なしで数字や画像を並置
人の脳は、近くに置かれた情報に“意味の橋”を勝手に架ける習性があります。
- 並べ方:A|B(上下左右・前後で配置)
- 読み手の自動補完:A ⇒ B(因果)/A ≒ B(同等)/A—B—C(連鎖)
- 固まる印象:根拠が無いのに“それっぽく”感じる結論
記事が匂わせ止まり(「Aもあり、Bもあった」と並べるだけ)なら当てはまります。
ちなみに記事が因果を言い切る(「AのためB」「AによってB」)なら、因果系の技法がさらに使われています。
並置と因果系の境界線(判定のコツ)
- 並置誤謬:「〇〇があった。△△も起きた。」(並べただけ/因果語なし)
- 事後因果:「〇〇があったため、△△が起きた。」(因果語あり・即断)
- 擬似因果:「〇〇と△△は関連があると指摘されている。」(権威づけで因果を匂わせ)
- 逆因果:本当は B → A なのに、A → B に読ませる(順番の取り違え)
因果語のサイン: 「〜ため」「〜だから」「〜によって」「影響で」「結果として」
→ これが無いならまず並置誤謬を疑い、あるなら因果系の可能性が高いです。
例(“コタツ記事”で起きやすい3型)
例1|前後を並べて“だから”に見せる(時間的近さ)
- 記事のテーマ:〈先週SNSで物議/今週 視聴率が下落〉
- 読者の本題:なぜ下がったの?
- 並置のしかた:2事実を連続見出しで横並び。本文に関係説明が無い
- 戻し方:
- 同時間帯に別の人気番組が大きく話題→リアルタイム視聴がそちらに流れた
- 物議は検索増・見逃し配信に効く可能性(当日の下落とは別の動き)
- 結論:並んだ事実は事実。因果は未提示と切り分ける
例2|ヒット途中で“別軸”を差し込む(物理的近さ+トピック混在)
- 記事のテーマ:〈映画が初週大ヒット〉
- 読者の本題:なぜ売れた?どの層が見に行った?
- 並置のしかた:本文の中盤で主演の恋愛観に賛否を差し込む(作品評価と別軸)
- 戻し方:
- 上映館数・回数・客層比・口コミ推移を同じ土俵で並べて理由を説明
- 恋愛観の話は別トピックとして分離(混ぜると評価が歪む)
例3|条件バラバラの数字を横並び(視覚的近さ)
- 記事のテーマ:〈AのMV1000万再生/Bの最新曲50万再生〉
- 読者の本題:今“伸びている”のはどっち?
- 並置のしかた:公開日・広告の有無・配信地域が異なる数字を同じ表で並置
- 戻し方:
- 公開後7日間の再生/広告なしなど条件をそろえて再集計
- 1日平均・継続率など同じものさしで比較
見分けるコツ(合図ワードと“配置サイン”)
- 文章の合図:「一方で」「ところで」「そんな中」「ちなみに」
- 配置サイン:
- 見出しA→改行なしで見出しB
- 説明の無いグラフ・写真の隣接
- 段落の前後でテーマが変わるのに接続語が無い
→ まず「本題は何?」を前提に、隣に置いた情報が本題と関係があるかを確認します。
戻し方(これだけでOK)
手順(3ステップ)
- 本題を一言で固定(例:「視聴率が下がった理由」)
- 並べられた情報を“同時に起きた事実”としていったん分解(関係は保留)
- 比べたい/因果を語りたいなら、同じ土俵(指標・期間・条件)と道筋(どうつながるか)を一行で足す
すぐ試す一言
「隣に置いただけ? それとも関係の説明がある?」
OKの言い方(例)
「前週の話題化は検索や見逃しに影響。当日の下落は、同時間の別番組が話題になった影響が大きいと見ます。並んだ事実は事実、因果は未確認です。」
近いけれど別物
- 連想統合法:無関係な出来事を点→線に見せる並べ方(並置の代表パターン)
- 擬似因果:一緒に動いただけを原因に見せる(数字の並置が引き金に)
- 事後因果:前→後の並びからだからと読ませる
- 不公平比較:土俵が違う数字や事例を並べて勝敗を匂わせる
- レッドヘリング:本題と別の話題を差し込んで注意をそらす(並置を利用しやすい)
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🔗 関連する技法
連想統合法(点つなぎレトリック)
本来は別々の出来事・数字・発言なのに、近くに並べたり順番に語ったりするだけで、ひと続きの“性格”や“体質”に見せてしまう見せ方です。 因果は言い切らなくても、点(出来事)を線(物語)に見せることで、読者に「いつも同じ」「やっぱりそうだ」と感じさせます。
対比フレーミング(Contrast Framing)
二つ以上の人物・組織・出来事を並べ、一方を肯定的に、もう一方を否定的に描くことで、読者の評価を方向づける構成技法。 本来は別々の文脈にあるものを「比較の物語」に変換し、“明暗”“勝敗”“成否”などの感情軸で物語を作る手法。
循環報道(Circular Reporting)
複数のメディアが、同じ未検証情報を互いに引用し合い、信頼性があるように見せてしまう構造。 一次情報が確認されないまま、「複数報道=確度が高い」という錯覚を生む。 報道の連鎖が自己再生し、真偽不明の情報が“事実のように流通”してしまう現象。
分散型メタ物語
複数のメディアが、同時期に類似した内容・論調・構成の記事を発信することで、あたかも「共通の事実」や「社会的な確定情報」であるかのような印象を生み出す現象。 単一記事の誤報や煽動とは異なり、メディア横断的な“空気”によって現実認識が形成される構造的リスクを指す。