10月22日、全日本プロレスが後楽園ホールで大会を開きました。その場で、練習生の塙元輝さんのデビュー戦が発表されています。舞台は大みそかの代々木第二体育館です。スポーツ報知は同じ日の夜、その記事を配信しています。
「全日本プロレス練習生」塙元輝、大みそか「代々木第二」デビュー戦決定…対戦相手は鈴木秀樹「全力で頑張ります!」…父はタレント・はなわ
見出しの主役は、デビューが決まった塙さんです。日付も会場も対戦相手も、本人の言葉もそろっています。そして最後に、「…父はタレント・はなわ」が付いています。
デビューの記事なのに、見出しの締めくくりは父親の名前。今日は、この記事の中で「誰の物語」として書かれているかを数えていきます。
父の名前は、記事に何回出てくるか
数えてみると、父・はなわさんの名前は5回出てきます。見出しに1回。写真案内に1回。リードに1回。テレビ番組の説明に1回。最後のプロフィールに1回です。
第3試合終了後に今年4月1日付で入団したお笑い芸人・はなわの長男で練習生の塙元輝(25)が12月31日の代々木第二体育館大会でデビューすることを発表した。
リードでも、塙さんは「はなわの長男」として紹介されます。25歳の本人より先に、父の肩書きが来ています。
家族を紹介すること自体は、珍しくありません。読者の関心を引く情報でもあるでしょう。ただ、見出しと冒頭の両方で父を前に出すとどうなるか。読者は「タレントの息子のデビュー」として受け取ります。本人の歩みは、その後ろに回ります。
公平のために書くと、5回のうち1回は本人の経歴そのものです。塙さんは2015年から、父の家族に密着するテレビ企画に出演してきました。そこで父の名前が出るのは自然です。気になるのは、見出しと冒頭という、いちばん目立つ場所です。
これは見出しと本文の重心のずれです。本文の大半は本人の経歴と言葉なのに、入り口は父の名前で作られています。
写真案内が呼び込む別の話題
記事の冒頭近くには、写真記事への案内があります。
【写真】はなわ、息子の全日本プロレス練習生・塙元輝とツーショット初共演…8歳から共演の明石家さんま驚がく「元輝、もう子どもがいるの?」
この一行の主語も、父のはなわさんです。さらに、別の番組の共演者が「驚がく」した話が添えられています。デビュー戦の発表とは、別の場面の話です。
そして、この写真案内は本人の家族の話へつながっています。本文には、こんな一文もあります。
私生活では23年に結婚。24年には第1子となる長男が誕生した。
結婚と子どもの誕生は、本人の大切な私生活です。デビュー戦の発表に、それが必要だったでしょうか。特に子どもは、自分で表に出ることを選んでいない存在です。
プロフィールの一部として書かれることはあります。ただ、この記事では写真案内と本文の両方で、家族の話が繰り返し前に出ています。デビューの記事として、少し重心が外に寄っています。
「はなわコール」は誰へのコールか
会場の様子は、こう書かれています。
塙は「全力でがんばります。応援よろしくお願いします」と誓うと、ホールは大きな「はなわコール」がわき起こった。
「はなわ」は、本人の名字の読みでもあります。会場が呼んだのは、デビューを決めた塙さん本人の名前でしょう。
ただ、この記事では同じ「はなわ」が、父の芸名として何度も出てきます。そのため、読者によっては、父へのコールのように読めてしまいます。たとえば「塙コール」と漢字で書けば、本人への声援だとはっきり伝わったはずです。
本文にある確かなもの——本人の歩みと言葉
ここで公平に書いておきます。この記事の本文は、本人の歩みをとても丁寧に記録しています。
柔道では、中3時に90キロ超級で全国3位、佐賀工3年時には100キロ超級で高校総体16強入りを果たすなどの成績を収めた。
国士舘大学での練習、大学講師として学生を指導した経験も書かれています。そして、仕事を辞めてプロレスを選んだ決断も記されています。
昨年5月に大学を退職し全日本プロレスからのオファーを受けプロレスラーになることを決意。
リング作りや先輩の雑用をこなす下積み生活にも触れています。本人のあいさつも、そのまま引かれています。
このたびデビューすることが決定しました。精いっぱい頑張ります。よろしくお願いします
柔道で結果を残し、指導者になり、その仕事を辞めてリングに上がる。この記事には、それだけで一本の物語になる材料がそろっています。父の名前がなくても、十分に読ませる記事です。
SmokeOut視点:本人の物語を、本人の名前で始める
有名人の家族がデビューするとき、記事は家族の名前を使いたくなります。読者の目を引く力があるからです。それ自体は、報道のよくある作り方でしょう。
ただ、本人が柔道と指導の道で積み上げたものは、本文にきちんと書かれていました。見出しが父の名前で締めくくられると、どうなるでしょうか。その積み上げが「誰かの息子」という一言に包まれてしまいます。
家族の情報を書くなら、本文の中で。見出しと冒頭は、本人の名前と歩みで始める。それだけで、この記事の温度は本人の挑戦にぐっと近づきます。
本人は記事の中で、二度決意を語っていました。「精いっぱい」と「全力で」です。どちらも、本人の言葉です。見出しの最後にふさわしかったのは、その言葉だったのかもしれません。
まとめ:見出しの最後の一言を読む
- ✓ 見出しの最後に置かれた名前は、記事の主役ですか?
- ✓ 家族や子どもの話は、その記事の内容に必要ですか?
- ✓ 「はなわコール」は、誰に向けた声援だったと思いますか?
本人の歩みを丁寧に記録した記事でした。煙は、その歩みを父の名前で包んだ見出しから立っています。見出しの最後の一言まで読めば、記事が誰を主役にしているかが見えてきます。