9月21日、俳優の東出昌大さんが著書の発売記念会見に出席しました。山での暮らしをつづったエッセイ集です。SmartFLASHは二日後、その会見を伝える記事を配信しました。
東出昌大「今後もやらかす側の人間」居直り発言も気遣われる元妻・杏の不遇…“養育費月1万円”騒動から山生活&再婚の陰で続く苦労
会見で話したのは東出さんです。けれど見出しの主役は、会見にいなかった杏さんです。杏さんは、この記事の中で一言も語っていません。それなのに「不遇」「苦労」と、その境遇が見出しで決められています。
語っていない人を主役にする記事は、どうやって成り立っているのか。今日はその組み立てを、一つずつほどいていきます。
「気遣われているようだ」——語っていない人を主役にする
記事の書き出しは、こうです。
イベントでは、かつての騒動をネタにする場面があったが、元妻で女優の杏の心境が気遣われているようだ。
「気遣われているようだ」。誰が気遣っているのかは、書かれていません。その根拠として記事が示すのは、Xの投稿です。
《どう考えたって杏ちゃんの方が頑張ってるだろ》
《東出が自然体で生きた結果のコストを杏さんが払ったよな》
引かれた投稿は二つです。それを記事は「元妻の杏を想起する声が見受けられる」とまとめます。二つの投稿が「声」になり、見出しでは「気遣われる」になりました。投稿者が誰で、どれだけの数があったのかは分かりません。
これは、免罪符としてのファンの声です。記事が言いたいことを、SNSの投稿に代弁させる書き方です。記事は「杏さんは気の毒だ」とは書きません。代わりに、そう書いた投稿を二つ選んで並べます。選んだのは記事です。
Xには、反対の意見もあったはずです。東出さんを擁護する投稿も、どちらにも関心のない投稿もあるでしょう。記事が二つを選んだ時点で、「声」の向きは決まっています。読者が見ているのは世論ではなく、記事の編集です。
「記者」が三人、名前はゼロ——情報源を数える
この記事の説明役は、三つの括弧です。「(スポーツ紙記者)」「(芸能記者)」「(同前)」。同業の記者が匿名で語る形式で、本文の大半がこの括弧の中にあります。
その中身を見てみます。会見の発言や過去の報道など、公開されている事実の説明が大半です。それ自体は確かめられます。問題は、事実の合間に評価が混ざることです。
スキャンダルをネタにする居直りぶりを咎める声もSNSであがっています
「居直り」は、内面への評価です。「咎める声」は、数も出どころもありません。どちらも匿名の記者の言葉として置かれ、記事の責任からは一歩離れています。
養育費についての段落も同じです。記事が根拠にしているのは、2021年の他媒体の報道です。五年前の記事の引き写しで、その後の状況は書かれていません。東出さん本人にも、杏さん側にも、記事は確認していません。
「自ら望んで」と「不遇」は両立するか——記事の中の矛盾
杏さんの近況について、記事はこう書いています。
杏さん自ら望んでのことですが、移住したこともあり、以前に比べると女優業はセーブしています
移住の理由として、本人がインタビューで語った言葉も紹介されています。子どもを育てる環境として魅力を感じた、という内容です。つまり記事自身が、本人の選択だと認めています。
それなのに、記事の結論はこうなります。
離婚から6年が経ち、明暗が分かれつつあることから、杏さんに同情する向きも多いようです
「明暗」と決めたのは記事です。「同情する向きも多い」の根拠は示されません。本人が望んだ暮らしを「暗」に置き、同情を集める側に据える。本人の言葉と、記事の枠組みが、同じ段落の中で食い違っています。
もう一つ、写真の案内です。「【画像あり】東出昌大との“不倫騒動”を手を叩いて笑い飛ばす唐田えりか」。杏さんの話とも、著書の話とも関係のない第三者です。過去の出来事を、写真で呼び戻す構造になっています。
本文にある確かな言葉——会見で実際に語られたこと
記事の良い点は、会見での発言がそのまま引かれていることです。
というのも、やっぱりいまの芸能界というのがきれいですよね、みんな。ただ、私は今後も、たぶんやらかす側の人間だと思うので
記事はこの発言を「冗談交じりに話しました」と書いています。つまり、記事自身が冗談だと認めています。それを見出しでは「居直り発言」と呼び直しました。本文の説明と見出しの言葉が、ここでも合っていません。
著書の発売記念会見という場は、確かめられます。事務所に所属しないという本人の回答も同じです。読者が自分で判断できる材料は、本文の前半にきちんとあります。後半の「不遇」と「明暗」だけが、本文の外から持ち込まれています。
SmokeOut視点:語っていない人を見出しにするとき
この記事で一番濃い煙は、語っていない人の境遇を、記事が決めていることです。杏さんの言葉は、移住の理由を語ったインタビューの引用だけ。それも「不遇」の枠組みの中で使われています。
子どもの数や養育費のような私事も並べられています。記事の枠組みを支える材料としてです。それが読者にとって必要な情報だったのか。本人が語っていない以上、答えは記事の側にしかありません。
会見の発言を伝えるだけなら、煙はほとんど立ちませんでした。発言を冗談だと書いた記事が、見出しで「居直り」と呼ぶ。そこから煙が濃くなっています。
まとめ:「気遣われる」の主語を探す
- ✓ 「気遣われる」「同情する向き」の主語は、記事のどこにありますか?
- ✓ 「声」として引かれた投稿は、何件ですか?
- ✓ 見出しの「不遇」を、本人は語っていますか?
本文には、確かめられる発言と、本人の選択を認める一文がありました。見出しは、そのどちらも使っていません。語っていない人の言葉を探す。それが、この記事を読み解く鍵です。