11月5日、フジテレビがドラマ制作への生成AIの本格導入を発表しました。スポニチアネックスは同じ日、その内容を記事にしています。
フジ、全ドラマに生成AIを本格導入 来年10月めど 湾岸スタジオに実験場設置、作業工数削減期待
見出しは、発表の要点を具体的に伝えています。時期、場所、目的。どれも本文と対応しています。
ところが本文の2行目には、発表とは関係のない一本の写真リンクがありました。登場するのは、この記事の主題ではない人です。今日はこの一行を、本文の言葉と並べて確かめていきます。
企業の発表に添えられた一行
生成AIの導入を伝える最初の段落のすぐ後に、こう書かれています。
【写真あり】顔がパンパン…数日休養したフジテレビ女子アナ
本文が伝えているのは、ドラマ制作の技術と体制の話です。一方、この一行が伝えているのは、ある人の顔の状態と休養です。記事の主題とは、まったく別の話題です。
これは論点のすり替えに近い構成です。論点のすり替え——本題と別の関心を差し込み、目をそらす書き方のことです。
リンク先がどんな記事なのかは、この記事からは分かりません。いつの話なのか、なぜ休養したのかも書かれていません。分かるのは、顔の状態と休養という二つの言葉だけです。
同じ会社の名前が入っているだけで、AIの話とはつながりがありません。読者は、技術の話を読む前に、この一行を目にすることになります。
記事に名前の出ない人の、顔と休養
この一行には、気になる点が三つあります。
一つ目は「顔がパンパン」という言葉です。顔の状態を、くだけた言葉で強調しています。これは容姿への言及です。仕事とは関係のない外見を、読者の関心を引く材料にしています。
しかも、その外見は本人の仕事の成果ではありません。番組での発言や取材の様子ではなく、顔の状態そのものが話題にされています。
二つ目は「数日休養した」という言葉です。休養は、体調にかかわる話です。体調の情報は、本人にとって慎重に扱われたいものの一つです。それが企業の発表の記事に、関係のない形で添えられています。
三つ目は「女子アナ」という呼び方です。名前ではなく、性別と職業をまとめた呼び名で示されています。これはレッテル貼りに近い書き方です。レッテル貼り——一つの呼び名で、人の像を固めてしまう書き方のことです。
三つの言葉が重なると、一行の印象は強くなります。外見、体調、そして性別と職業の呼び名。どれも、本人が自分で選んだ言葉ではありません。
「…」の省略も、読者の想像を誘う形です。何があったのかは書かれていません。分からないまま、顔と休養の話だけが目に入ります。
本文にある確かなもの——数字の条件と時期
本文に戻ると、この記事は発表の中身を丁寧に伝えています。特に、数字の扱いが慎重です。
一部工程では従来の手法と比べて作業工数を最大70~80%削減できたと報告。
「一部工程では」「最大」「と報告」。数字に三つの条件が添えられています。全体が8割減ったわけではないことが、読者に分かる書き方です。発表の出どころも「公式サイトを通じ」と示されています。見出しも「削減期待」として、断定を避けています。
導入の流れも、時期を追って書かれています。
同社は7月の組織変更でデジタル戦略統括室内に「AIセンター」を新設。9月からAI Sandboxの運用を開始し、ドラマの制作スタッフと技術スタッフ、AI関連企業などが連携して活用方法を検証している。
7月、9月、そして来年10月。読者は、発表の位置づけを自分で確かめられます。具体的な使い方も、ドラマの場面を例に示されています。
第1話の爆発事故シーンでも、AIで生成した架空の空撮映像に煙を合成する手法が使われた。
今後の計画についても、書き方は慎重です。
さらに2029年度には、フジ・メディア・ホールディングス全体で国内トップベンダーレベルのAI活用機能を保有することを目指す方針を示した。
「目指す方針を示した」と、会社の目標であることがはっきり分かる形です。目標を達成したかのようには書かれていません。
技術の話を、視聴者が知っている番組の場面につなげています。記事の中で、いちばん確かで分かりやすい部分です。
だからこそ、冒頭の一行が目立ちます。丁寧に条件を添えた本文の前に、条件のない一行が置かれているからです。
SmokeOut視点:記事の外の人を、記事に連れてこない
写真リンクは、読者をほかのページへ運ぶ入口です。閲覧数を考えれば、目を引く言葉を選びたくなるのも分かります。
けれど、この一行で取り上げられているのは、記事の主題ではない人です。本人は、AIの発表とは何の関係もありません。それでも、顔の状態と休養が、別の記事の入口として使われています。
本文を読まない人にとっては、見出しと写真リンクが記事の印象になります。AIの記事を開いたのに、残るのは「顔がパンパン」かもしれません。それは、丁寧に書かれた本文にとっても、もったいないことです。
入口の言葉も記事の一部です。企業の発表の記事なら、発表に関連する写真で足ります。撮影現場や、AIを使った場面の画像でもよいはずです。
記事の主題と関係のない人を、その人の体調や外見で記事に連れてこない。それだけで、記事は伝えたい中身をまっすぐ伝えるものになります。
まとめ:本文の前の一行は、誰の話か
- ✓ 写真リンクに登場する人は、記事の主題と関係がありますか?
- ✓ その一行は、誰の外見や体調を話題にしていますか?
- ✓ 本文の数字には、どんな条件が添えられていますか?
数字の条件と時期を丁寧に伝えた記事でした。煙は一か所から立っています。企業の発表の前に、記事の外の人の顔と休養を伝える一行を置いた構成です。本文の前の一行が誰の話なのか。そこに目を向けるだけで、記事の見え方は変わります。