9月24日、ホワイトソックスがポストシーズン進出を決めました。村上宗隆選手にとって、メジャー1年目の秋です。スポーツ報知は翌朝、シャンパンファイトの様子を記事にしました。
Yahoo!ニュースのトピックスに並んだ見出しは、こうでした。
村上宗隆絶叫 アイムジャパニーズ
元の記事の見出しは、次の通りです。
村上宗隆、地元局インタビューで絶叫 今の気分は10点満点で?「ワンハンドレッド!」…「アイムジャパニーズ!」川崎宗則の名言も飛び出した
楽しい記事です。本人の言葉が多く、数字も豊富です。それでも、読み終えて一つの文が引っかかりました。チームが「生まれ変わった」のは、誰のおかげだと書かれているか。
今回は、その一文を軸に読んでいきます。そして、同じ記事の中にある本人の言葉と数字を、それに照らします。
「村上が加入したこともあって生まれ変わった」
記事は、チームの過去3年をこう振り返ります。
ホワイトソックスは23年に61勝101敗、24年にはメジャー史上最悪となる121敗(41勝)を喫し、25年も60勝102敗と3年連続で“大台”到達。しかし、今季は村上が加入したこともあって生まれ変わった。2年連続100敗以上の球団がPS進出を決めたのは長いMLBの歴史でも初めて。史上最大の下克上を成し遂げた。
「村上が加入したこともあって生まれ変わった」。「こともあって」という言い方は、他の要因も認めています。断定ではありません。その点は丁寧です。
ただ、この段落で名前が挙がる要因は、村上選手だけです。他の要因は「こと」の中に畳まれています。読者の記憶に残るのは、名前のある方です。
さらに、こう続きます。
村上の活躍が若いチームに化学反応をもたらし、日を追うごとに強くなった。ガーディアンズとの地区優勝争いはもちろん、PSの舞台でも勢いに乗れば台風の目になるかもしれない。
「化学反応をもたらし」。これは、原因と結果を結ぶ言葉です。村上選手の活躍が原因で、チームが強くなった、と。しかし、その根拠は本文に示されていません。誰かの証言でも、数字でもなく、記事の見立てです。
一人の加入の後に、チームが変わった。だから、一人の加入がチームを変えた。この形は、前後即因果と呼ばれます。前に起きたことを、後に起きたことの原因だと見なす考え方です。記事はそこまで断定していませんが、読者をその方向へ導く配置になっています。
「絶叫」「衝撃」「史上最大の下克上」
温度のある言葉も、いくつか出てきます。まず「絶叫」。見出しと本文で、合わせて4回使われています。
シャンパンファイトでずぶ濡れとなった村上は地元局CHSNのインタビューで「今の気分は10点満点で何点?」と質問され「ワンハンドレッド!」「ノー テン。ワンハンドレッド!」と絶叫。
ここは、実際に大声で答えた場面の描写です。動画への案内もあり、読者は確かめられます。「絶叫」は記者の温度ですが、火のあるところに立った煙です。SmokeOutが問題にする「衝撃」とは、少し違います。
次に、こちらです。
メジャー1年目の今季。村上はデビュー戦から日本人&球団史上初、MLB史上4人目の3試合連発と衝撃のスタート。
「衝撃のスタート」。誰が衝撃を受けたのかは書かれていません。記録そのものは具体的で、確かめられる形です。「衝撃」の一語だけが、出どころのない温度として乗っています。
そして「史上最大の下克上」。これは記事の評価です。根拠も書かれています。2年連続100敗以上の球団のPS進出は「長いMLBの歴史でも初めて」だと。この記録の出典は示されていませんが、読者が調べられる形にはなっています。
一方で、「台風の目になるかもしれない」は、推測が推測の形で書かれています。「かもしれない」が付いている。これは良い書き方です。事実と推測を、文末で分けています。
記事の中の数字と本人の言葉が、記事の見立てを補正する
この記事の良いところは、見立てを補正する材料が、同じ記事の中にあることです。まず、数字です。
村上はルーキーながらチームトップタイの33本塁打をマークし、バルガス(33本)、C・モンゴメリー(31本)らと強力打線を形成。球団では18年ぶり4度目の“30発トリオ”が相手の脅威であり続けた。
村上選手は「チームトップタイ」です。つまり、同じ本数の選手がもう一人います。その次の選手も、2本差です。数字を読むと、打線は一人で作られていないことが分かります。
チーム本塁打の数字も、そうです。
今季、チーム本塁打は昨季の165本から4試合を残して203本と激増。大谷らを擁するドジャースを上回り、メジャー全体6位(23日終了時点)となっている。
38本の増加のうち、村上選手の33本がすべてではありません。他の選手の本数も動いています。「23日終了時点」と時点を明記している点は、検証しやすい書き方です。
そして、本人の言葉です。記事の末尾には、一問一答がそのまま載っています。
「僕だけじゃないですね。チームの若い選手、ルーキーもたくさんいますし、チーム全員のおかげだと思います」
「チーム全員のおかげ」。本文は「村上が加入したこともあって生まれ変わった」と書きました。同じ記事の中で、本人は「僕だけじゃない」と言っています。記事は、その言葉を削っていません。ここが、この記事のいちばん誠実な部分です。
もう一つ、本人の言葉を引きます。
「否定的な意見はこうやって結果で残すしかないと思っているので、それを実現できてよかったなと思います」
本人が語っているのは、結果で応えたという事実です。チームを変えた、とは言っていません。記事の見立てと本人の言葉の間に、静かな温度差があります。
SmokeOut視点:「主人公」を作る型と、その代償
日本の選手を追うスポーツ記事には、決まった型があります。その選手を主人公に置き、チームの出来事を主人公の物語として語る。読者もそれを求めています。この記事も、その型どおりです。
型そのものは悪くありません。ただ、物語にすると、因果が一本の線になります。加入した、強くなった、だから加入が原因だ。線が一本になるたびに、他の選手の名前が消えていきます。
この記事は、その代償を自分で払っています。数字を出し、一問一答を載せ、本人の「僕だけじゃない」を残しました。見立てと材料が同じ記事に同居している。読者は、材料の方から読むこともできます。
まとめ:因果の一文は、数字と本人の言葉で確かめる
- ✓ 「〜のおかげで変わった」という文の根拠は、記事のどこに書かれていますか?
- ✓ 記事の数字は、その因果を支えていますか、それとも広げていますか?
- ✓ 本人の言葉は、記事の見立てと同じことを言っていますか?
楽しい記事は、楽しく読んでいい。ただ、因果の一文だけは、少し立ち止まって読みたい。数字と本人の言葉は、同じ記事の中にあります。まずはそこから確かめてみませんか。