10月15日、元AKB48の大盛真歩さんの入社が発表されました。入社先は一般企業です。芸能界を引退し、企業の広報担当になるという内容です。オリコンは同じ日の正午、その記事を配信しました。
元AKB48大盛真歩さん、芸能界引退から一般企業に入社 異例の転身…パソコン経験ゼロから企業広報に挑戦【コメント全文】
新しい門出の記事です。本人のコメントも全文が載っています。読んでいて気持ちのよい記事ですが、一つ気になりました。この記事の言葉のうち、どこまでが本人の言葉で、どこからが会社の言葉なのか。
記事には、本人と会社のほかに語り手がいません。「異例の転身」と決めたのは誰なのか。今日はそこを、本文の文末から確かめていきます。
「決意」「覚悟」「意欲」——本人の言葉に、記事が重ねた言葉
本人のコメントは、記事の中で三回に分けて引かれています。その引用のあとに、記事はこう続けます。
芸能活動で培った経験を生かしながら、未経験の分野に飛び込む覚悟を示した。
その前の引用は「と決意を語った」で締められています。その後の引用は「と意欲を見せた」です。決意、覚悟、意欲。三つの引用に、三つの評価が添えられました。
本人が言ったのは、「自分にできる事を一から頑張りたい」です。それを「覚悟」と呼ぶかどうかは、読む人の判断です。記事は、その判断を先に済ませています。本人の言葉を読む前に、読者は記事の評価を受け取ることになります。
見出しの「異例の転身」も同じです。芸能界を離れて会社員になる人は、少なくありません。何と比べて異例なのか、記事は根拠を示していません。「異例」は、記事がつけた温度です。
地の文に入った、会社の言葉
記事の後半に、こういう段落があります。
同社は今回の採用を、芸能活動経験者のセカンドキャリアを支援する取り組みの一環と位置づける。アイドル活動で培われる発信力や表現力、ファンとのコミュニケーション能力などを、企業広報の分野でも生かせると考えている。大盛の成長を通じて、芸能界から一般企業へと進む新たなキャリアモデルの構築を目指す。
主語は「同社」です。「位置づける」「考えている」「目指す」。会社の意図が、三文続けて地の文で語られています。かぎ括弧はありません。会社の発表文なのか、記事が取材して書いたのか、読者には区別がつきません。
同じ段落の少し前にも、似た一文があります。入社の決め手について「歴史ある企業でありながら新しいことに挑戦し、進化を続けている点に魅力を感じたという」。こちらは本人の談として書かれていますが、中身は会社の自己紹介に近い言葉です。本人の言葉と会社の言葉が、ここでも隣り合っています。
内容を見ると、これは採用の方針説明です。会社がこの採用をどう見せたいか、という文章です。記事がそれを地の文に置くと、会社の見せ方が記事の見方になります。読者は、会社の言葉を記事の言葉として読んでしまいます。
この記事の情報源は、会社の発表と本人のコメントの二つです。引退の理由も「所属先の発表では」と書かれています。本人や会社の外にいる人の声は、一つもありません。悪い書き方ではありません。ただ、記事の全体が一つの発表に寄りかかっています。読者が知っておいてよい点です。
本文にある確かなもの——コメント全文と、本人の言葉から来た見出し
この記事の良い点は、本人のコメントが末尾に全文で載っていることです。記事の要約と見比べて、何が足されたかを読者が自分で確かめられます。
見出しの「パソコン経験ゼロ」も、本人の言葉から来ています。
もちろん社会人経験やマナーも全てゼロからで、今までパソコンにすら触れたことの無い私ですが、自分にできる事を一から頑張りたいと思っております
「触れたことの無い」を「経験ゼロ」と縮めたのは記事ですが、意味は変えていません。見出しの言葉に、本文の根拠があります。
活動期間は「約8年半」と具体的です。担当する業務も、SNSの運用やイベントの企画、メディア対応と並んでいます。読者は、転身の中身を具体的に知ることができます。引退の理由も、出どころつきで一文あります。
芸能界引退を決断した理由について、所属先の発表では「芸能活動でやりたかった事は全てやりきった」と説明。
誰の発表かが書かれている。それだけで、読者は言葉の重さを測れます。
SmokeOut視点:門出の記事ほど、言葉の出どころを分けてほしい
新しい仕事を始める人の記事に、厳しい目を向けたいわけではありません。本人の門出は、そのまま祝福したい出来事です。
だからこそ、記事には会社の言葉と本人の言葉を分けて見せてほしい。会社には、この採用を広く知らせたい理由があります。本人には、自分の言葉で語りたい思いがあります。二つを地の文で混ぜると、読者はどちらを読んでいるのか分からなくなります。
もう一つ。「異例」と書くなら、何件のうちの何件なのか、比べる材料がほしいところです。それが無理なら、「珍しい」と感じたのが誰なのかを書くだけでも、読者は言葉の重さを測れます。
「異例」「覚悟」「決意」。記事が足した言葉を外しても、本人のコメントは十分に読み応えがありました。記事の言葉を足す前に、本人の言葉を信じる。それが、門出を伝える記事の一番の誠実さだと思います。
まとめ:本人の言葉、会社の言葉、記事の言葉
- ✓ 「決意」「覚悟」は、本人が言った言葉ですか?
- ✓ 地の文の「位置づける」「目指す」の主語は、誰ですか?
- ✓ 「異例」と書かれたとき、何と比べて異例なのか示されていますか?
本人のコメント全文という土台は確かでした。その上に、会社の方針と記事の評価が、同じ文体で重なっています。三つの言葉を分けて読む。それだけで、この記事はずっとすっきり見えてきます。