10月31日、俳優でモデルの馬場ふみかさんが報告をしました。所属事務所との契約が満了したという内容です。約14年間所属した事務所です。ENCOUNTは同じ日、その報告を記事にして配信しました。
仮面ライダー女優でモデルの馬場ふみかが所属事務所退所「これからも一つひとつのお仕事に真摯に向き合い、精進してまいります」
本文は短く、本人のSNSの言葉を中心にまとめられています。感謝と、これからの決意を伝える内容です。
ところが本文の2行目に、一本の写真リンクが入っています。その言葉は、退所の報告とは向きが違うものでした。今日はこの一行と、見出しの肩書きを、本文の言葉で確かめていきます。
報告の記事に添えられた一行
記事の冒頭、契約満了を伝える一文のすぐ後に、こう書かれています。
【写真】「顔もスタイルも美しすぎ」 31歳・馬場ふみかのインナーくっきり透けミニ白T姿
本文が伝えているのは、14年の感謝と新しい一歩です。一方、この一行が伝えているのは、服装と体の見え方です。記事の主題とは、まったく別の話題です。
これは論点のすり替えに近い構成です。論点のすり替え——本題と別の関心を差し込み、目をそらす書き方のことです。
写真リンクは、多くのネット記事にある仕組みです。ただ、どの写真を選び、どんな言葉を添えるかは編集の判断です。この記事では、体の線を強調する言葉が選ばれました。
この一行は、本人のコメントよりも前に置かれています。記事を開いた読者は、感謝の言葉を読む前に、この一行を目にすることになります。
しかも、リンクの先にあるのは別のページです。そこで読者が見るのは、退所の報告ではありません。記事の入口が、報告とは別の場所へ読者を連れていく形になっています。
本人がSNSで語ったのは、仕事への向き合い方でした。その言葉の直前に、体の見え方を伝える一行が置かれています。読者が最初に受け取る印象は、どちらになるでしょうか。
「美しすぎ」は誰の声か
写真リンクの言葉には、もう一つの特徴があります。「顔もスタイルも美しすぎ」が、かぎかっこで示されている点です。
かぎかっこは、誰かの発言を示す記号です。けれど、この言葉を誰が書いたのかは示されていません。SNSの反応なのか、編集部の言葉なのか、読者には分かりません。
これは主語の曖昧化です。主語の曖昧化——誰の声なのかをぼかして、空気だけを伝える書き方のことです。声の主が見えないまま、容姿への評価だけが記事に残ります。
ほめ言葉であっても、外見を評価する言葉には変わりません。退所という仕事の節目に、その言葉を重ねる必要があったのか。そこには疑問が残ります。
見出しの肩書きと「モグラ女子」
見出しの冒頭は「仮面ライダー女優」です。本文を読むと、その出演は2014年のことでした。
新潟県出身の馬場は2014年の『仮面ライダードライブ』でテレビドラマ初出演。
12年前の初出演作を、肩書きとして見出しに置く。読者に分かりやすい目印ではあります。ただ、その後の歩みは見出しからは見えなくなります。
本文の終わりには、こんな言葉も出てきます。
グラビアを行うモデル、通称“モグラ女子”の代表的存在に。
「代表的存在」と言い切っていますが、根拠は示されていません。誰がそう呼んだのかも書かれていません。これはレッテル貼りに近い書き方です。レッテル貼り——一つの呼び名で、人の像を固めてしまう書き方のことです。
見出しは12年前の役で、本文の終わりはグラビアの呼び名で人物を描いています。そして冒頭には、体の見え方を伝える一行があります。三つが重なると、本人が語った仕事への思いは、どうしても後ろに下がって見えます。
本文にある確かなもの——本人の言葉と事実
ここで公平に書いておきます。この記事の本文は、事実の部分ではとても誠実です。
事務所の名前、約14年という期間、契約満了という形。どれも本人のSNSの言葉に沿って書かれています。推測や憶測は加えられていません。
本人のコメントも、長く引用されています。
未熟だった私を長きにわたり支え、育ててくださったこと、そして新たな一歩を踏み出す私の背中を温かく押してくださったことに、心より感謝しております
見出しは「退所」、本文は「契約が満了」です。意味は食い違っていません。円満な区切りであることは、引用からも伝わります。退所の理由をあれこれ詮索する言葉もありません。
だからこそ、冒頭の一行が目立ちます。本文が丁寧に運んだ本人の言葉を、写真の一行が上書きしてしまうからです。
SmokeOut視点:記事の主題に、写真の言葉をそろえる
写真リンクは、読者をほかのページへ運ぶ入口です。閲覧数を考えれば、目を引く言葉を選びたくなるのも分かります。
けれど、入口の言葉も記事の一部です。仕事の節目を伝える記事なら、仕事の写真を添えればよいのです。代表作の場面や、本人がSNSに載せた報告の画像でも足ります。
肩書きも同じです。初出演作だけでなく、最近の出演作を並べる方法もあります。そのほうが、本人が語った「一つひとつのお仕事」と、記事の言葉がそろいます。
これは、この記事だけの話ではありません。同じ日には、別の俳優の独立を伝える記事も配信されていました。人の節目を伝える記事は、毎日のように生まれています。だからこそ、添える一行の選び方が問われます。
報告の主役は、報告した本人の言葉です。写真の一行まで含めて、その言葉に寄り添えているか。それが、記事の誠実さを測る一つの目安になります。
まとめ:報告の記事で、何が先に目に入るか
- ✓ 写真リンクの言葉は、記事の主題と同じ話をしていますか?
- ✓ かぎかっこの「美しすぎ」は、誰の声ですか?
- ✓ 見出しの肩書きは、いつの仕事を指していますか?
本人の言葉と事実を、丁寧に伝えた記事でした。煙は一か所から立っています。退所の報告に、体の見え方を伝える一行を添えた構成です。記事を読むときは、本文の前に置かれた一行にも目を向ける。それだけで、記事が何を見せたいのかが見えてきます。