10月11日、パンサーの尾形貴弘さんが北九州のイベントに登場しました。子ども向けのファッションイベントです。モデルとして活動を始めた長女と、親子でランウェイを歩いています。モデルプレスは同じ日の夜、その様子を記事にしました。
芸人の親子共演。感動の言葉。この種の記事は、記事の側が盛り上げたくなる題材です。読む前に身構えましたが、記事はほとんどを本人の言葉で組み立てていました。
- 発言はすべてランウェイ後のMCでのやりとりで、出どころが明確
- 日付、会場、イベント名、モデル就任を発表した雑誌名が具体的に書かれている
- 見出しの「涙出そうになって」は本人の言葉そのまま
- 8歳の長女についても、記事が容姿や才能を評価せず、本人の発言を引いている
- 末尾に「Not Sponsored 記事」と明記し、広告ではないと示している
- 記事の言葉で盛り上げている箇所は「話題」「湧かせた」など数語にとどまる
この記事が「煙たくない」理由——その場の言葉で書かれている
記事の中心は、ランウェイ後のMCでの発言です。
本当に涙出そうになって。皆さん手振ってくれていっぱい。頑なに振らない人もいましたけど(笑)!でも、ほぼ振ってくれて最高の思い出になりました
「ランウェイ後のMCで親子共演の感想を聞かれると」。記事は、誰が、どの場面で、何を聞かれて答えたかを書いています。いつ、どこで出た言葉かが分かる。それだけで、読者は発言を自分で位置づけられます。
イベントの情報も具体的です。日付は10月11日。会場は北九州メッセ。長女のモデル就任は「9月10日」に「Cuugal」で発表、とあります。確かめようと思えば確かめられる書き方です。
そして、記事の末尾にこうあります。
【Not Sponsored 記事】
広告やタイアップではない、という表記です。イベント記事は、主催者や出演者の宣伝と区別がつきにくいものです。それを一行で示している。SmokeOutが見ている芸能記事で、この表記を目にすることは多くありません。小さな一行ですが、読者が記事の立ち位置を知るための大切な情報です。
「主観」と「事実」の線引き——親子の様子は本人の言葉で
記事が事実として置いているのは、次のような情報です。
- 10月11日に北九州メッセでイベントが開かれた
- 尾形さんと長女が着物姿で親子でランウェイを歩いた
- 長女は9月10日に「Cuugal」のクリエイターモデル就任を発表していた
- ランウェイトップで「サンキュー!」の決め台詞を披露した
一方で、親子の関係は記事の感想では語られていません。やりとりの引用で示されています。
すごいなーお前!テンション俺と一緒じゃん!遺伝がすごいな
これは尾形さんの言葉です。長女の「めっちゃ楽しかったでーす」も、本人の言葉として引かれています。記事が「仲の良い親子だ」と断定する代わりに、二人の言葉を並べて読者に見せる。この順番が、記事の信頼を支えています。
もう一つの美点——8歳の子を「評価」しない
子どもが出てくる記事では、記事の側が子どもを褒めがちです。「将来有望」「天才」「かわいすぎる」。本人が選べない言葉が、記事の言葉として残ります。
この記事には、それがありません。長女について記事が書いているのは三つだけです。モデル就任の事実、着物姿で登場したこと、本人の一言。容姿の評価も、才能の予言もありません。
「物おじせずにコメントすると」という一言だけは、記事の印象です。ただ、それも本人の発言に添えられた短い説明にとどまっています。子どもを主役にした記事として、抑えた書き方だと思います。
残る薄い煙——「話題」の主語
一つだけ、記事の言葉が顔を出している箇所があります。
モデルデビューを果たしたことで話題を呼んださくら。
「話題を呼んだ」。誰の間で、どのくらいの話題だったのかは書かれていません。見出しにも「“モデルデビュー”話題の長女」とあります。「話題」は便利な言葉です。主語がなくても文が成り立つからです。けれど、読者には確かめようがありません。
もう一つ。見出しの「感無量」は、記事の言葉です。本人が言ったのは「涙出そうになって」です。「感無量の様子で振り返った」と記事は書いています。間違いではありませんが、本人の言葉より一段強い温度がついています。「会場を湧かせた」も同じです。どれも軽い言葉ですが、記事が足した温度であることは覚えておきたい点です。
SmokeOut視点:イベント記事は、どこから宣伝になるのか
イベント記事には、もともと宣伝の性格があります。主催者は取り上げてほしいし、出演者も伝えてほしい。記事の側がそれに乗ると、「盛況」「大反響」と温度だけが上がっていきます。
この記事が示したのは、その線の引き方です。出演者の言葉は場面つきで引く。主催者の説明は、イベントの紹介として分けて書く。そして、広告ではないと一行で示す。読者は、どこまでが報道でどこからが紹介かを、自分で見分けられます。
「Not Sponsored」と書くことは、裏を返せば「Sponsored」の記事もあると認めることです。それを隠さず書く媒体のほうが、読者は信じやすい。SmokeOutはそう考えます。
まとめ:本人の言葉と「Not Sponsored」の一行
- ✓ 「話題」と書かれたとき、誰の間での話題か分かりますか?
- ✓ 「感無量」「湧かせた」は、本人の言葉ですか、記事の言葉ですか?
- ✓ その記事は、広告かどうかを読者に示していますか?
イベント記事は、その場の言葉を正確に運ぶだけで価値があります。この記事は、それに「広告ではない」という一行を添えました。残る煙は、「話題」と「感無量」という記事の言葉だけです。本人の言葉で書き、立ち位置を示す。こういう記事が、イベントの数だけ増えてほしいと思います。