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更新: 2025/11/5

「痛々しい」? その言葉が佐藤健さんの努力を隠す

「痛々しい」? その言葉が佐藤健さんの努力を隠す

🌙 タイトルで“物語”が始まってしまう

『なんか痛々しい』佐藤健、歌手としてツアー開始も“ナルシスト感全開ライブ”に戸惑うファン続出

見出しの中にすでに三重の構文があります。

  1. 「痛々しい」(否定的評価
  2. 「ナルシスト感全開」(人格的ラベリング
  3. 「ファン続出」(社会的多数の演出

けれど、本文を読むとその“痛々しさ”の根拠はありません。

むしろ、記事自体がこう書いています。

「台北で行われた初日公演はソールドアウト。観客3000人が熱狂した」

「MCでは中国語を使って自己紹介し、台北での思い出などを語り、現地ファンとのコミュニケーションを楽しんでいた」

つまり、成功と熱狂の事実を描きながら、語り口だけがネガティブに設計されている。

これは SmokeOut が定義する 「印象転写(Framing by Contrast)」

ポジティブな事実を“否定語”のフィルターを通して読者に伝えることで、無意識に「違和感がある」という印象を生む技法です。


💬 “ファン続出”って、どこの誰?

記事が示す根拠は、この3つだけです。

《かっこいいし歌も上手いんだけどなんというか、見てると恥ずかしくなるナルシスト感全開というか》

《健はん、どこを目指してまんのや》

《なんか痛々しい》

3件。

それだけで“ファンが戸惑う”、“続出”と書かれている。

ここでの論理の飛躍は明白です。

  • 投稿の出典が不明(何のSNSか不明)
  • 書き手がファンである証拠がない
  • 母数が明示されていない

なのに、記事はこう書きます。

「アーティストとしての姿は未だに慣れないファンもいるようだ。」

「~もいるようだ」構文。

典型的な推測語尾で、裏付けのない印象を“ファンの声”として転写しています。

“Journalists should not present isolated social media opinions as representative of public sentiment.”

「記者は、個別のSNS投稿を社会的意見として扱ってはならない。」

UNESCO: Journalism, ‘Fake News’ & Disinformation (2018)


🎬 “ナルシスト”という言葉の短絡

記事はこうも書きます。

「金髪を逆立てた“ツンツンヘア”で、バンドのボーカルらしいワイルドな印象」

「そんなシックな衣装と金髪のコントラストが目立っていた」

見た目の描写にすぎないのに、見出しでは「ナルシスト感全開」に変換されています。

つまり、外見の変化 → 自信過剰の人格表現という飛躍。

けれど、そんなに簡単にラベリングできるのでしょうか

公開されたメイキングムービーには、楽器経験がほぼゼロだった佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳が、1年以上の年月をかけて練習に取り組んだ様子が収められている。

TENBLANKのメンバーを演じた佐藤はベースとピアノ、宮﨑はドラム、町田はギター、志尊はキーボードとベースを担当。

映像には、楽器と真剣に向き合う姿や、演奏しながらセリフを放つシーンのリハーサルなどが収められている。

このような作品にかけた情熱や想いを安易に“ナルシスト”と呼ぶのは、努力を感情的なラベルで矮小化する行為です。

“Journalism should avoid speculative or sensational coverage of personal performance or appearance.”

「ジャーナリズムは、個人の表現や外見を憶測的・扇情的に扱うべきではない。」

UNESCO: Journalism, ‘Fake News’ & Disinformation (2018)


🪞 “ファンの声”を免罪符にしないで

この記事で繰り返し出てくるのは、「ファンの戸惑い」「ファンの声」。

でも、“ファン”という言葉は、しばしば報道が批判を中立化するための免罪符(Vicarious Framing)として使われます。

本当のファンは、こうした断片的なSNS投稿ではなく、1年以上の練習、演奏シーン、そして「挑戦する誠実さ」を見ている。

“痛々しい”ではなく、“努力が伝わって嬉しい”と語る人が多数派です。

それを切り取らずに、“違和感”だけを並べる。

それはもう、“批評”ではなく“煽動”に近い。

「違和感」と「進化」の境界を見誤らない。

挑戦を続けることはとても難しいこと。

目新しい姿を“戸惑い”で括るより、その努力を“進化”として伝えるメディアが増えてほしい。


🌱 まとめ:まっすぐな挑戦をまっすぐに受け止めたい

✓ SNSの3件だけで“続出”と書かれていない?

✓ 見出しの否定語が、事実と逆を描いていない?

✓ “ナルシスト”という言葉が、努力を奪っていない?

“痛々しい”と書かれたその文字の向こうに、たくさんの練習と、まっすぐな挑戦がある。

王道のエンターテイメントを、照れずにやれたらと思っています。

佐藤健(Netflix Japan公式インタビュー, 2024年2月)

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