毎日新聞は11月4日、特定健診(メタボ健診)をめぐる記事を配信しました。当該記事によれば、財務省が行政支援の見直しを提言したという内容です。当該記事によれば、提言は同日の財政制度等審議会の分科会で示されたものです。
特定健診「医療費削減効果薄い」支援打ち切りか 財務省
見出しのかぎかっこには「医療費削減効果薄い」とあります。財務省がそう述べたように読める形です。ところが本文では、この言葉は財務省の発言の引用には出てきません。
この分析で扱うのは、提言の中身ではなく、記事のかぎかっこの使い方です。誰の言葉で、どこまでが記事のまとめなのか。見出しの「打ち切りか」と記事の「単純計算」もあわせて、本文と照らし合わせます。
冒頭のかぎかっこは、誰の言葉でしょうか
記事は、かぎかっこで始まります。
「特定健診(メタボ健診)・特定保健指導は医療費の削減効果が薄く、多額の公費投入を続けるべきではない」――。
読者はまず、これを財務省の発言として受け取ります。ただ、続く一文にはこう記されています。
財務省は病気の予防や健康づくりの代表的施策となっている特定健診について、こんな趣旨で打ち切りを含めた行政支援の見直しを提言した。
「こんな趣旨で」とあります。冒頭のかぎかっこは、財務省の言葉そのものではありません。記事が提言の要旨をまとめたものだと読めます。
かぎかっこは通常、発言や文書の文言をそのまま示す記号です。要旨を同じ記号で示すと、どこからが記事のまとめなのかが見えにくくなります。事実と要約の境界がぼやける書き方です。
見出しの「医療費削減効果薄い」は、本文のどこにあるのでしょうか
本文には、財務省の言葉として直接引かれた箇所が二つあります。一つは分科会での指摘です。
「(公費投入の)コストを上回る医療費削減につながっているとの実証的・定量的なエビデンス(証拠)が明らかになっているとは言えない」と指摘。
もう一つは、記事の終盤にある問題提起です。
財務省は「病気の予防や健康づくりは重要だが、費用対効果の高い対策への移行や重点化を図るべきだ」と問題提起した。
当該記事は、このほかに研究の紹介も載せています。財務省は費用対効果の論文も引用したとされます。その中に、「多くが医療費を削減するのではなく、むしろ増加させる」とする研究がある、という記述です。こちらは研究の内容の紹介として書かれています。
前者は「明らかになっているとは言えない」という言い方です。後者は「病気の予防や健康づくりは重要だが」と前置きしています。どちらにも「効果薄い」という文言はありません。
見出しの「医療費削減効果薄い」は、要旨の「削減効果が薄く」を縮めた形と読めます。記事がまとめた要旨が、見出しでは発言のかぎかっこに入っています。「明らかになっているとは言えない」と「削減効果が薄く」。二つの言い方では、断定の強さが異なります。
「打ち切りか」は、提言のどの部分に当たるのでしょうか
見出しの後半は「支援打ち切りか」です。本文では、提言の範囲がこう記されています。
打ち切りを含めた行政支援の見直しを提言した。
当該記事によれば、提言は「打ち切りを含めた行政支援の見直し」です。打ち切りは選択肢の一つとして示されています。財務省の言葉として引かれたのは、「移行や重点化を図るべきだ」でした。
見出しは、見直しの幅のうち「打ち切り」の一点を前に出しています。文末の「か」で断定は避けています。それでも、前に出ているのは最も強い選択肢です。見出しと本文の幅の違いとして記録しておきます。
「単純計算」の二つの数字は、同じ年度のものでしょうか
記事は、公費と削減効果を比べています。当該記事によれば、国の財政支援は26年度予算で175億円です。地方負担を含めると307億円とされています。これに対し、削減効果はこう記されています。
単純計算で投じた公費の約4割しか医療費の削減効果がなく、公費負担がはるかに大きい。
ここで比べられているのは、26年度の予算額と、29年度の削減見込み額です。年度の異なる二つの数字を一つの割合にまとめています。「単純計算で」と断っている点は、計算の性質を読者に示す書き方です。
ただ、続く「公費負担がはるかに大きい」は、記事の側の評価として置かれています。数字の出どころは「財務省によると」「厚生労働省の計画でも」と示されています。一方、割合の計算と「はるかに」という評価の主体は、書き分けられていません。
修正するとすれば
まず、要旨と発言を記号で分ける方法があります。たとえば冒頭は次のように書けます。
- 修正前:冒頭に要旨をかぎかっこで置き、次の文で「こんな趣旨で」と受ける
- 修正後:かぎかっこを外して要旨として書く。財務省の文言は、本文中の直接引用だけをかぎかっこに入れる
見出しも、本文に直接引かれた言葉を使えば、発言との対応が保てます。
- 修正前:かぎかっこの中に要旨の言葉を入れる
- 修正後:かぎかっこを使わず、打ち切りを含む見直しという提言の幅を見出しに残す
計算の部分は、比べる数字の年度を並べて示す方法があります。26年度予算の307億円と、29年度の削減見込みの120億円。二つの年度を明記し、割合は記事の試算だと添えます。そうすれば、読者が自分で確かめられます。
まとめ:かぎかっこの中身は、誰の言葉か
- ✓ 見出しのかぎかっこの言葉は、本文で発言として引かれていますか?
- ✓ 冒頭の文は、発言の引用ですか、記事のまとめですか?
- ✓ 比べられている二つの数字は、同じ年度のものですか?
当該記事は、審議会の名称や予算額を示しています。厚生労働省の計画の数字も、出どころとともに伝えています。財務省の言葉も、二か所で直接引かれていました。
そのうえで、記事が作った要旨と、財務省の発言が、同じかぎかっこで示されています。見出しに入ったのは、要旨の側の言葉でした。
見出しだけが流通する場面では、かぎかっこは発言の印として読まれます。その印が要旨にも使われると、読者は発言と要約を見分ける手がかりを失います。かぎかっこの扱いは、記事の内容とは別に、読者の情報環境を左右する要素の一つです。