9月末、DeNAは2日間で15人の選手に、来季の契約を結ばない旨を通知しました。AERA DIGITALは10月5日、その人選をめぐる記事を配信しています。
Yahoo!ニュースのトピックスに並んだ見出しは、こうでした。
DeNA大量の戦力外通告 驚きの声
元の記事の見出しは、次の通りです。
藤浪晋太郎、佐々木千隼、井上絢登らが戦力外 DeNAの大量通告に驚きの声「他球団が高評価」の選手も
「驚きの声」。SmokeOutがいつも立ち止まる言葉です。誰が、何人、驚いたのか。今回は、この記事の「声」を一つずつ数え、出どころを確かめます。
四人の声——立場はある、名前はない
本文に登場する「声」の主は、四人です。
- 「DeNAを取材するライター」
- 「DeNAの球団OB」
- 「ファームで対戦した他球団の首脳陣」
- 「プロ球団の元スカウト」
四人とも、名前はありません。しかし、立場は書かれています。「関係者によると」とだけ書く記事に比べると、これは一歩前です。読者は、どの位置から見た意見かを知ることができます。
ただ、四人とも一人ずつです。「他球団の首脳陣」は、一人の首脳陣の言葉です。それが見出しでは、こうなります。
「他球団が高評価」の選手も
一人の首脳陣が「高く評価する」と語りました。それが見出しでは「他球団が高評価」になりました。「他球団」という言葉は、複数の球団を思わせます。本文の根拠は、匿名の一人です。ここで、声の数が一つから複数へ膨らんでいます。
その一人の言葉は、こうでした。
「フルスイングだけど空振りが少なく、きっちりコンタクトできる。吉田正尚(レッドソックス)のような強打者になる可能性を秘めています。外野守備には課題があり、チームに左打者が多いこともあって、1軍での出場機会に恵まれませんでしたが、戦力外通告を受けるとは思いませんでした。DeNAで伸び悩んでいた細川成也(中日)が現役ドラフトで移籍して大ブレークしたケースがありますし、井上も得点力が課題の球団でチャンスを与えられれば、覚醒する可能性があります」
「可能性を秘めています」「覚醒する可能性があります」。語り手自身は、可能性の話として語っています。見出しの「高評価」より、ずっと慎重な言葉です。
「選手たちから驚きの声が上がった」——数えられない声
四人のほかに、もう一つの「声」があります。
DeNAの選手たちから退団に驚きの声が上がったのが、井上だった。
「選手たち」。誰なのか、何人なのか、誰に対して声を上げたのかは書かれていません。四人の匿名には立場がありましたが、この「選手たち」には立場も人数もありません。記事の中で、いちばん出どころの薄い声です。
取材の場面を描く言葉も見ておきます。
DeNAを取材するライターは驚きを口にする。
DeNAの球団OBも複雑な表情を浮かべる。
「複雑な表情を浮かべる」。対面で話を聞いたのなら、見えた表情です。電話や文面なら、見えません。取材の方法が書かれていないので、読者には判断できません。小さな点ですが、情報源の見え方に関わる部分です。
語っていないのは誰か——球団の説明がない
この記事には、もう一つ大きな空白があります。戦力外を決めた球団の説明が、どこにもありません。
記事は四人の声で、人選への疑問を積み上げます。「驚きでした」。「獲得に動く球団があるんじゃないですかね」。「戦力外通告を受けるとは思いませんでした」。しかし、決めた側がなぜそう判断したのかは、載っていません。
戦力外の理由を球団が詳しく語ることは、確かに少ないでしょう。それでも、問い合わせたのか、回答がなかったのか。その一行があるかないかで、記事の公平さは変わります。SmokeOutの物差しでは、これは一方的視点にあたります。
見出しの「驚き」は、この構造から生まれています。驚いているのは、匿名の評価者たちです。決めた側の言葉がないので、読者には「球団が見誤った」という印象だけが残ります。
数字は確かめられる——この記事の土台
一方で、この記事には確かな層があります。数字です。
今年は1軍で3試合出場にとどまったが、ファームで93試合に出場して打率.270、7本塁打、48打点をマーク。
ファームの成績、登板数、四死球の数。読者が公式記録で確かめられる数字が、各選手について並んでいます。匿名の評価が揺れても、数字は揺れません。読者は、評価ではなく数字の方から読むこともできます。
もう一つ、良い点があります。元スカウトの言葉です。
データ解析が進んでいることが、選手の見切りが早くなっている原因かもしれません
「かもしれません」。語り手は、自分の見立てを推測の形で語っています。ただ、記事の小見出しはこうでした。
■ドラフト1位にも早まる見切り
語り手の「かもしれません」が、小見出しでは断定になっています。語り手は慎重でした。記事の方が、一歩先に進んでいます。
SmokeOut視点:戦力外報道の型と、語らない側
戦力外の記事には、決まった型があります。惜しむ声を集め、成績を並べ、「もったいない」と結ぶ。読者もその型を求めています。選手に寄り添う記事は、読まれます。
この記事は、その型を丁寧に組んでいます。立場つきの匿名、確かめられる数字、推測を推測として語る情報源。土台は悪くありません。
残る煙は、二つです。一人の声が見出しで複数に膨らむこと。そして、決めた側の言葉がないこと。惜しむ声だけで組まれた記事を読むとき。読者は「語っていないのは誰か」を一度考えてみる。それだけで、記事の見え方が変わります。
まとめ:「声」を数えて、語っていない人を探す
- ✓ 「驚きの声」の主は何人で、名前と立場はどこまで書かれていますか?
- ✓ 見出しの「他球団」は、本文では何人の言葉に支えられていますか?
- ✓ 決めた側の説明は載っていますか。載っていないなら、問い合わせた記述はありますか?
数字の層は確か、声の層は匿名。そして、決めた側は語っていない。戦力外の記事は、そう分けて読むと輪郭が見えます。選手たちの成績は、本文の数字でそのまま確かめられます。まずはそこから読んでみませんか。