10月12日、櫻井翔さんが「くまのプーさん」のイベントに出席しました。電車に乗って田舎に帰った、という話をしています。デイリースポーツは同じ日の昼、その様子を記事にしました。
櫻井翔 日常で電車を頻繁利用と告白「昨日は湘南新宿ラインも乗りましたし」会場どよめく「そんなに驚く?」
電車に乗る。それだけのことが、見出しでは「告白」になり、「会場どよめく」になっています。読んだ瞬間、何か意外な事実が明かされたように感じます。
本文を読むと、確かに本人は電車に乗ると言っています。嘘はありません。ただ、「告白」と「どよめき」は、本人の言葉でしょうか。記事の言葉でしょうか。今日はその境目を見ていきます。
「どよめいた」のは誰か——反応を数える
見出しの「会場どよめく」は、本文のこの箇所から来ています。
櫻井は「めちゃめちゃ乗ってますよ!昨日は湘南新宿ラインも乗りましたし。そんなに驚く?新幹線も乗りましたけど」と淡々と明かし、会場は思わず「えー!?」とどよめいた。
では、記事に書かれた反応を数えてみます。川島如恵留さんの「翔くん、電車乗るんですね!」。同じく川島さんの「びっくりですよね!?まじっすか」。阿部亮平さんの「え?ちょっと乗ろー!」。司会の「明日から湘南新宿ラインの乗車数がすごく伸びそう」。
名前のある反応は、三人分です。そのうち驚いているのは、川島さん一人です。阿部さんは乗ろうと言い、司会は冗談を返しています。「会場」が「どよめいた」という描写だけが、誰の声でもありません。
これが主語の曖昧化です。一人の反応を「会場」という大きな主語に移し替える。すると、出来事の規模が変わって見えます。本人が「そんなに驚く?」と言ったのは、たぶん川島さんに向けてです。見出しでは、それが会場全体への言葉のように読めます。
「告白」と「思わぬ」——記事が足した温度
見出しの「告白」は、本文でも繰り返されます。
思わぬ告白に川島は「びっくりですよね!?まじっすか」と驚き。
「告白」は、隠していたことを打ち明けるときの言葉です。櫻井さんは、イベントの質問に答えて電車の話をしただけです。隠していた様子はありません。本人の口調は、記事自身が「淡々と明かし」と書いています。
「思わぬ」も記事の言葉です。誰にとって思わぬことだったのか。川島さんにとっては、そうだったかもしれません。記事はそれを、読者全員の驚きとして置いています。
もう一つ、小さな抜けがあります。
思わぬトラブルで乗車中はスマホが使えなかったそうで
「思わぬトラブル」が何だったのかは、書かれていません。本人が話さなかったのかもしれません。それなら「詳細は語らなかった」と一言あれば、読者は納得できます。「トラブル」という言葉だけが残ると、読者は余計なことを想像します。
本文にある確かな言葉と、記事に混ざった宣伝の言葉
この記事の良いところは、本人の言葉が長く引かれていることです。
日常ついやってしまいがちなことから離れるっていうことも一つ、“なんにもしないをする”なのかなと思いました。窓の外の景色見るだけではありましたけど、その移動の時間がすごく新鮮で豊かな時間でしたね
何を聞かれて、どう答えたか。質問の内容も書かれています。「プーさんタイム」で新発見したことを問われた、という場面です。発言の場面が分かる書き方です。出席者三人の名前と肩書きも揃っています。
一方で、本文の二段落目は、こうなっています。
のんびりマイペースな暮らしを楽しむプーさんが伝えてきた「“なんにもしない”をする」時間の豊かさを伝えていく。
この文の主語は、櫻井さんたち三人です。でも、言葉はキャンペーンの説明そのものです。誰かの発言としてではなく、記事の地の文として書かれています。読者には、記事の説明なのか、主催者の宣伝文なのかが分かりません。
写真の案内も見ておきます。「国民的スターとラブラブ密着」に、ハートの記号が添えられています。この一行は、記事というより告知の文体です。イベント記事が宣伝と地続きになる場所は、たいていこういう周辺部です。
念のために書くと、宣伝のイベントを記事にすること自体は問題ではありません。読者が知りたいのは、どこまでが記者の観察で、どこからが主催者の言葉かです。その線が引かれていれば、イベント記事は十分に信頼できます。この記事は、線が一段落ぶん曖昧でした。
SmokeOut視点:小さな話を大きくする、三つの言葉
この記事に、深刻な煙はありません。本人の言葉は正確に引かれ、事実関係に問題もありません。それでも見出しは、電車の話を事件のように見せています。使われたのは「告白」「どよめく」「驚く」の三つです。
反応の描写にも同じことが言えます。一人の「びっくり」を、記事は「会場」の「どよめき」に育てました。本人の言葉は一字も変えていないのに、周りの温度だけが上がっています。読者が受け取るのは、その温度です。
この三つは、芸能記事の見出しで毎日のように目にします。便利な言葉です。何を言っても「告白」になり、誰かが一言反応すれば「どよめく」になります。読者は、見出しと本文の温度差に慣れてしまいます。やがて、見出しを信じなくなります。
電車に乗る話は、そのままでも十分に面白い話でした。本人の「そんなに驚く?」が、一番の見出しだったと思います。
まとめ:「どよめき」の中身を数える
- ✓ 「会場どよめく」の中で、名前のある反応は何人分ですか?
- ✓ 「告白」と書かれた発言は、本当に隠していたことですか?
- ✓ 地の文の説明は、記事の言葉ですか、主催者の言葉ですか?
本人の言葉は確かで、反応の描写だけが一回り大きい。そんな記事でした。見出しの温度を本文で確かめる。それだけで、この煙はすぐに晴れます。