10月21日、都内で金融セミナーのイベントが開かれました。ゲストは、お笑いトリオ・パンサーの3人です。タレントの稲村亜美さんも参加しています。日刊スポーツは同じ日の夜、その様子を記事にしました。
パンサー向井慧、TBS若林有子アナの話題連発に顔真っ赤でタジタジ 共演者も報道陣もイジる
見出しの主役は、向井慧さんの「顔真っ赤でタジタジ」です。そして、その理由として、イベントに来ていない人の名前が置かれています。
記事を読むと、もう一つの主役が見えてきます。質問をした報道陣です。今日は、この記事の中で「イジった」側がどう書かれているかを読んでいきます。
「イジっていいんだ」と思ったのは誰か
記事は、共演者の一言から流れが変わったと書いています。そして、こう続けます。
だが、これで報道陣も含めて“イジっていいんだ”と、火が付いた格好となった。
「イジっていいんだ」と思ったのは、報道陣です。記事はその場の様子を伝えています。つまり、書いた側も取材する報道陣の側にいました。それなのに、この一文には主語がありません。「火が付いた格好」と、自然にそうなったかのように書かれています。
これは主語の曖昧化です。主語の曖昧化——誰がそうしたのかをぼかして、出来事だけを残す書き方のことです。
報道陣は、質問をしました。
守るべき相手ができて、お金の使い方を意識するようになりますか
質問したのは記者で、困ったのは向井さんです。そして、困った様子を記事にしたのも記者の側です。質問する側と、その反応を伝える側が同じなのです。
記者が質問すること自体は、取材の仕事です。ただ、その質問が記事の見出しを作っているなら、それは書いておく必要があります。「報道陣もイジる」と見出しにあるのは、その点では正直です。
「強引に幕引き」は誰の言葉か
記事は、向井さんの心の中にも踏み込んでいます。
向井は「リアルに、こういう、いろんなことを考えることが大事なんだなと思いました」と、テレビ番組やこの日のイベントなど、普段の巧みな司会進行とは裏腹に、強引にこの話題から幕引きしようとした。
向井さんが話したのは、かぎかっこの中の一言だけです。それを「強引に幕引きしようとした」と受け止めたのは記事です。本人の狙いは、本人にしか分かりません。
これは内面の断定です。内面の断定——本人が語らない気持ちや狙いを、事実のように書くことです。
回答への評価も同じです。報道陣の質問への答えを、記事は「フワッとした回答に終始」とまとめています。けれど、本人の言葉を読むと、はっきりしたことを言っています。
まだ『結婚した』とかいう話ではないので、今は、そんなに変わらないですね。まあまあ、堅実に。いろんなことを考えながらやりたいなと思います
「まだ結婚した話ではない」。これは、曖昧な答えというより、事実の説明です。それを「フワッとした」と呼ぶと、何かを隠しているような印象が残ります。
「ゴールイン間近」はどこから来たのか
記事の最後の一文です。
結婚資金、資産形成といった、ゴールイン間近を予感させる向井との親和性バッチリなイベントだっただけに、会見は攻められっぱなしの時間が続いた。
「ゴールイン間近」を予感させたのは、イベントのテーマです。向井さん本人ではありません。本人は直前に「まだ結婚した話ではない」と話しています。
イベントが結婚資金を扱っていた。だから結婚が近いように見える。これは、テーマと本人の予定を結びつける論理の飛躍です。読者には、本人が否定したばかりの「近い結婚」の印象だけが残ります。
「質問攻め」「二の矢」「攻められっぱなし」という言葉も、記事には並んでいます。会見を、攻める側と守る側の勝負のように描く言葉です。攻めていたのが報道陣なら、その描き方は少し不思議に見えます。
見出しの「話題連発」も数えてみましょう。共演者の菅良太郎さんが一回、稲村さんが一回、報道陣の質問が一回。本文で、その話題が出たのは三回です。三回を「連発」と呼ぶかどうかは、読む人によって分かれるでしょう。
本文にある確かなもの——本人の言葉と、その場の事実
ここで公平に書いておきます。この記事は、その場で話された言葉をたくさん拾っています。共演者の言葉も、向井さんの言葉も、かぎかっこで区別されています。
向井さんは、自分の仕事についても語っていました。
僕はラジオを基本的にやっているので、もはや見た目にこだわる必要がないというか
ラジオのレギュラー番組を4本持っていることも、記事は伝えています。イベントの趣旨や参加者も具体的です。その場にいなければ書けない記録として、価値のある部分です。
だからこそ、気になるのは配置です。記事の冒頭近くには、こんな写真案内があります。
【写真】交際相手の若林有子アナ
このイベントに、その人はいません。それでも名前は見出しに入り、写真が添えられています。その場にいない人が、記事の目玉の一つになっているのです。
SmokeOut視点:聞いた側も、記事の登場人物
イベントの取材では、本題とは別の質問が出ることがあります。それに答えるかどうかは、本人が決めることです。向井さんは、答えられる範囲で答えていました。
問題は、その後の書き方です。質問した側が主語から消え、困った側の顔色だけが残る。そして、本人が否定したことが「予感」として最後に置かれる。読者は、向井さんが何かを隠しているような印象を受け取ります。
質問したのが報道陣なら、そう書けばよいのです。「記者の質問に、こう答えた」。それだけで、読者は会見の温度を正しく測れます。
まとめ:「火が付いた」の主語を探す
- ✓ 「イジっていいんだ」と思ったのは、誰でしたか?
- ✓ 「強引に幕引き」は、本人の言葉ですか、記事の言葉ですか?
- ✓ 「ゴールイン間近」を、本人は何と言っていましたか?
その場の言葉を丁寧に拾った記事でした。煙は、質問した側の姿が消えたところから立っています。主語を探して読めば、会見の本当の温度が見えてきます。